亡き詩人リファト・アイアラールに
　　　　　--"If I must die, You must live ”によせて --

　あなたが世界から奪われたのなら
　私は泣き　そして書こう
　街が暴虐の炎に覆われたある十二月の日
　あなたの最期の吐息は白い大きな鳥になった
　その長い尾から　無数の羽がこぼれ
　レヴァンテ（東地中海）の海風に乗って
　インターネットの荒波を越えて
　極東の島国にも　羽のひとひらがたどりつく
　あなたの言葉はこの島の言葉に訳されて
　それでもあなたの尾羽は　たしかに私のてのひらに落ちた

　あなたの尾に乗ったこどもたちに
　もし生きて出会えていたなら　私は必ずや微笑みかけたろう
　その想いそのものが　すでに愛だと言わせてはくれないか
　あなたの愛したその街の
　罪なくして塀の中に閉じ込められたひとびと
　無限たる紺碧の空は切り取られ
　伸ばせば手が届く輝く海に
　船出することも禁じられたひとびとに
　決して忘れはしないと伝えるために　私は書こう

　かつては
　かぐわしい風になびく　紗布を織り出したひとびとが
　殺され追われなければならないのか
　娘たちの手は　その白く透き通る
　羽と見まがう布を　織りなすためにあったのに
　その布に星の縫い取りをほどこして
　涼やかに装うためにあったのに
　今その布は　おびただしい瓦礫に砕かれたなきがらをくるみ
　それでもまだ足りぬとばかりに　憎しみと嘲笑がふりそそぐ

　私は顔を上げ　そして書こう
　あなたの愛した街の名を
　　　　GAZA--ガザ--と

作者注：ガザは古代から紗布の産地で、ガーゼ（綿紗、Gaze）やゴーズ（絹紗、Goze）の語源になっている。

＊リファルト・アルアライール（1979年9月23日 - 2023年12月6日）
パレスティナ、ガザ地区の詩人、作家、ガサ＝イスラーム大学教授。文学を通じてガザ地区の実情を発信していたが、2023年イスラエルによるジェノサイドのさなか、イスラエル国防軍の空爆によって殺害された。それ以前から何度も殺害の脅迫を受けており、狙い撃ちに遭ったとみられる。本作の元詩となった『If I must die --もしわたしが死なねばならないのなら、きみは必ず生きなければならない』は、アルアライールが得意とした英語のスタイルで、本人のアカウントから死の数週間前にSNSに投稿され、詩人の遺言として世界50カ国語に翻訳された。邦題のネット検索でも、数々の日本語訳が読める。
この詩は、アルアライール『もしわたしが死なねばならないのなら　きみは必ず生きなければならない』への返歌として書いたので、ぜひ元詩を一読されたい。
参照：『現代詩手帖』2024年5月号　「【特集】パレスチナ詩アンソロジー　抵抗の声を聴く」