ブッシュJr.の演説（空中庭園・『バナナとシンバル』付録）

＊ブッシュJr.は、テロからおよそ１０日後の２００１年９月２０日、世界各国に向けてこんな演説をした。以下がその要旨である。

今夜、米国は危機に目覚め、自由を守るように求められた。我々の悲しみは怒りに、怒りは決意に変わった。我々の敵を裁きにかけるか、正義の報いが彼らに及ぶか、いずれにせよ正義は実現されるだろう。悲劇のあった夜、議会の共和党も民主党も一つにまとまり、我々の社会を再建し、軍隊への必要な支援をするために４００億ドルの予算を認めてくれた。
米国国民を代表して世界中からの支援の申し出に感謝する。我々の国歌が英国のバッキンガム宮殿で、パリの大通りで、そしてベルリンのブランデンブルク門で演奏されたことを我々は決して忘れない。ソウルの大使館の前で韓国の子どもたちが祈ってくれたことを、カイロのモスクでの同情の祈りを決して忘れない。
我々の国民とともに犠牲となった、パキスタン、イスラエル、エルサルバドル、イラン、メキシコ、そして日本など、８０カ国もの他の国々の犠牲者も忘れてはならない。

９月１１日、自由の敵は我々の国に戦争行為をなした。米国は戦争というものを知っていた。だが（南北戦争終結後）過去１３６年にわたり、４１年のある日曜日以外は、異国の地での戦争を知っていただけだった。
米国は戦争の悲劇を知っていた。だが、あんな平和な朝に大都市の中心を襲った悲劇ではなかった。
米国は奇襲を受けたことはあったが、数千人の市民が対象ではなかった。自由を享受する世界が攻撃にさらされた。
米国は今夜、多くの疑問を抱いている。いったいだれが攻撃をしたのか？

我々が集めたすべての証拠は、テロ組織アルカイダの犯行であることを示している。タンザニアとケニアの米大使館、米駆逐艦コールを爆発させた殺人者たちだ。
アルカイダがテロ行為をするのはマフィアが罪を犯すのと同じだ。だが、彼らの最終目的は金を稼ぐことではない。あらゆる場で人々に過激な信条を強要しようとしているのだ。テロリストはイスラムの教えや多くの聖職者らに背く過激な活動をしている。過激派の行為は、イスラム教の平和な教えをねじまげている。テロリストの目的は、キリスト教徒とユダヤ教徒を、そして米国人を殺害することである。兵士であろうが民間人であろうが、女性、子供であろうが区別はない。
このグループとオサマ・ビンラディンという名のそのリーダーは、エジプトのイスラム勢力のジハード団、イスラム運動ウズベキスタンなど世界各地の様々な組織と結びついている。
６０カ国以上の国にこうしたテロリストが何千人もいて、自国民や周辺諸国から仲間を集めている。そして、アフガニスタンのようなところの拠点に連れてきて、テロの技術を訓練している。
アルカイダのリーダーはアフガンに大きな影響力を持ち、実効支配するタリバーン政権を支えている。われわれはアルカイダの世界戦略を知っている。

アフガンの人々は虐待されてきた。多くは飢え、避難している。女性は学校に通うことも許されない。テレビを持っていると刑務所に入れられる。宗教はリーダーの命令によってのみ実行される。もしあごひげが十分に長くなければ刑務所に入れられてしまう。
米国はアフガンの人々を重んじている。我々は最大の人道的な援助もしている。我々はタリバーンを非難する。タリバーンは自国民を抑圧しているだけではない。あらゆるところで、テロリストに資金を与え、かくまい、支え、自国民を恐怖に陥れている。人殺しを助け、けしかけることによって、タリバーンは殺人を犯している。
米国はタリバーンに以下のことを要求する。国内に潜伏しているすべてのアルカイダ指導者を米当局に引き渡すこと。不法に拘束している外国人を解放すること。国内のすべてのテロリスト訓練拠点を閉鎖し、全員を当局に引き渡すこと。拠点の閉鎖を確認するために、米国の査察を認めること。
こうした要求に交渉の余地はない。タリバーンは直ちに行動しなければならない。さもなくばテロリストと運命を共にすることになる。

イスラム教徒たちへ。我々はあなた方の信仰を尊重する。テロリストはその教えを 裏切り、イスラムを乗っ取ろうとしている。米国の敵は、イスラム教徒ではなく、過激なテロリストのネットワークと、それを支援するすべての政府だ。
我々のテロとの戦いはアルカイダを相手に始まり、すべてのテロ集団を見つけだして打ち砕くまで続く。

米国は問うている。「なぜわれわれを憎むのか」と。
テロリストは、我々の自由、信教の自由、言論の自由、他人と違う意見を持つ自由を敵視している。彼らはエジプトやサウジアラビアなど、各地のイスラム国家で政府転覆を望んでいる。イスラエルを中東から駆逐しようとしている。
我々はテロリストの見せかけの主張には惑わされない。彼らはナチズムや全体主義など、２０世紀のあらゆる残忍な思想の継承者だ。

米国は問うている。「どのようにしてこの戦争に勝利するか」と。
我々はすべての外交手段と情報、司法機関、経済力、必要なすべての武器を用いて、世界のテロネットワークを破壊する。この戦争は、早期に解決した湾岸戦争とは違う。また、地上軍を使わず、戦闘で米兵の犠牲を出さなかったユーゴスラビア空爆とも異なるものだ。
我々の反応は、単なるその場の報復や散発的な攻撃以上のものだ。一度の戦闘だけでなく、これまで経験したことのない長い作戦を予期するべきだ。テレビで見ることができる劇的な攻撃もあれば、成功しても公にならない秘密作戦もあるかもしれない。テロリストの財源を断ち、互いを裏切らせ、どこにも隠れ場所がなくなるまで追い込む。
テロリズムを援助、擁護する国家も追及する。世界のあらゆる地域のあらゆる国は決断しなければならない。我々と共にあるか、さもなくばテロリストと一緒になるかだ。 今後、テロを育て、支持するあらゆる国家は米国にとって敵対国家とみなす。
我々は米国民をテロから守るための防護策を講じる。最高レベルでの調整が必要だ。そこで今夜、閣僚級を長とする米国土安全保障局を設置することを決めた。その長にペンシルベニア州のリッジ知事をあてる。
テロを負かす唯一の方法は、それが育つ土壌で止め、抹殺し、破壊することしかない。我々の軍に私からメッセージがある。準備を整えよ。軍に警戒態勢を命じたのには理由がある。米国が行動する時がまさに来ようとしており、我々はあなた方のことを誇らしく思う。

しかし、これは米国のみの戦いではない。これは世界の、文明全体の戦いであり、多文化主義、寛容と自由を信ずるものすべてにとっての戦いだ。
あらゆる国家に我々に加わるよう呼びかける。おそらく北大西洋条約機構（ＮＡＴＯ）の憲章が世界の最善の反応を代弁している。あるメンバーへの攻撃は全体への攻撃だ。文明世界全体が米国の側に立っている。このテロが罰せられずに終われば、次は自分たちが標的かもしれないのだ。しかし、それは許さない。

米国民は何をすれば良いのか。
米国の価値観を保持してほしい。だれであろうと民族的な背景や宗教信条のために不正な扱いを受けることは許されない。犠牲者を援助し、ＦＢＩ（米連邦捜査局）の捜査に協力してほしい。
私はあなた方の忍耐を望む。これは長い戦いになるだろう。経済活動への自信を失わないでほしい。我々は国家への突然の挑戦に直面している。空の安全を守るために必要な手段をとらなければならない。国内でのテロを探知するために必要な手段を司法当局に与え、事件を起こす前に計画を探知し、テロリストを見つけるために情報収集力を強めなければならない。

米国の決意の象徴として、ニューヨークを再建する。
とてつもない打撃を受け、多大な被害を被った。そしてこの悲しみと怒りの時に、我々は自分たちの使命を悟った。自由と恐怖がいま、戦っているのだ。我々は決して疲れることはない。ためらうことはない。そして決して敗れることはない。私は米国国民の自由と安全を守るこの戦いが報われるまで決して気を抜かない。
この戦いはいまだ経験したことのないものだ。しかし、結果は明らかだ。自由と恐怖、正義と残酷さが戦っている。神が我々に英知を与え、合衆国を見守ってくれんことを。

＊演説要旨の文面は、こちらから引用させていただきました。（紅玉）
http://miiref00.asahi.com/national/ny/news/010921speech.html