１７ 博打の好むもの
平賽子（ひょうさい）鉄賽子（かなさい）四三賽子（しそうさい）
それをば誰にうち得たる 文三刑三月々清次とか
（訳） 博徒の好きなもの 平賽子 鉄賽子 四三賽子
その目を取ったの誰だろう 文三か刑三か 月々清次か
３８０ あそびの好むもの 雑芸、鼓、小端舟
大笠翳（かざし）艫取女（しもとりめ）
男の愛祈る百大夫（ひゃくだゆう）
（訳） 遊女のお好みは 今様 鼓 愛用の小舟
大笠かざしの禿 かじとり女
恋愛成就のお守り人形の百大夫
３０６ 聖の好むもの 木の節、鹿角、鹿の皮
蓑笠、錫杖、木櫺（もくれんじ）
火打ち笥(け）、岩屋の苔衣
（訳） 修験者が好むのは 木の節 鹿角 鹿の皮
蓑笠 錫杖 木櫺
火打ち石の箱と 岩屋で着てるぼろ衣
４２５ 聖の好むもの 比良の山をこそ尋ぬなれ
弟子やりて 松茸、平茸、滑薄 さては池に宿る蓮のはい
根芹（ねぜり）、根ぬ菜（ねぬなは）、牛蒡（ごんぼう）
河骨（かわほね）、独活（うど）、蕨、土筆（つくづくし）
（訳） 修験者の好物なら 比良の山で探すといいよ
弟子をやって 松茸 平茸 榎茸 それから池底の蓮の根っこ
芹の根にじゅんさい ごぼう
河骨 うど わらび つくしんぼ
４２７ 凄き山伏の好むものは 味気な凍てたる山の芋
山葵、かし米、水雫 沢には根芹とか
（訳） 強面山伏の好物は つまんねえな 凍らせた山の芋
わさび 洗い米 水の雫 沢には根芹も植わってるってさ
４３６ 武者の好むもの 紺よ紅、山吹、濃蘚芳
茜、寄生木（ほや）の擦（すり）
良き弓、胡ぐい、馬鞍、太刀、腰刀、鎧甲に脇楯、籠手具して
（訳） 武者のお気に入りは 紺色に紅色 山吹に濃い赤紫
茜染め ほやの擦り模様
上等の弓 矢筒 馬の鞍 太刀と腰刀
鎧甲に脇楯つけて 籠手具もはめる
４３７ 博打法師の様がるは 地蔵よ、伽旃（かせん）、二郎、寺主とか
尾張や伊勢のみみづ、新発意（しもち）、無下に悪きは鶏足房
（訳） 坊主の博徒で売り出し中は まずは地蔵 それから伽旃
次郎 寺主も捨てがたい
尾張や伊勢のみみずと新発意 やたら下手くそ鶏足房
４４７ 聞くにおかしき經読みは とうかく高砂の明泉房（みょうせんぼう）
江口のふちにたのやけの君 淀には大君、次郎君
（訳） 上手に聞かせる経読みは とうかく 高砂の明泉房
江口の岸辺のたのやけの君 淀には大君 次郎君がいる
４４５ 媒人（なこうど）女の様がるは 胡蝶、てらよ
まつさへ、ふたこの宮人
すしの人 光めでたき玉川は 夜夜照らす月とかや
（訳） 仲人女の名物は 胡蝶 てらよ まつさえ 双子の巫女 すしの人
その名かがやく玉川は 闇夜を照らす月なみの凄腕だってさ
３９８ 男怖じせぬ人 賀茂女（ひめ）、伊予女、上総女
はししあかてる夢なえの すしの人 室町わたりのあこほと
（訳） 男あしらいのうまい人 賀茂の遊女 伊予の遊女 上総の遊女
橋で夜明かしする夢占のすしの人
それから 室町あたりの遊女あこほと
３９７ 見るに心の澄むものは
社（やしろ）壊れて禰宜（ねぎ）もなく 祝なき
野中の堂のまた破れたる 子産まぬ式部の老いの果て
（訳） 見るからにすっきりするものは
神社がぶっこわれて神官逃げて 神人もいないところ
野っ原の御堂がどんどんボロくなってゆくところ
子無しのすかした女房が一人で年とって死んでくところ
（用語解説）
＊平賽子（ひょうさい）鉄賽子（かなさい）四三賽子（しそうさい）
双六等のゲームで、有利なサイコロの目だろう。
＊文三刑三月々清次
当時有名だった数人の博徒のことだろう。
＊小端舟（こはしぶね）
遊女は川を舟で移動して商売する漂泊の民である。舟は愛車でもあり、家のようなもの。
＊木櫺（もくれんじ）
落葉高木の一種で、丸い大きな種がとれ、数珠の材料になった。
＊様（よう）がる
風変わりな、おもしろい、といった意味。
＊とうかく
これは不詳。
＊はししあかてる夢なえの
諸説あるらしいが、どれも意味がとれないらしい。音の類似で訳してみた。
＊禰宜（ねぎ）
神官の一つ。
＊祝（ほふり）
禰宜よりさらに格下の神官。神人。
＊式部
この場合の「式部」は女房名で、紫式部、和泉式部、清少納言など、インテリな宮廷女房たちの代名詞。
（襲の色目）
楓襲ね。夏の意匠。
Copyright (C) 2000 Ruby